行列の定値性(正定値・半正定値・負定値・半負定値・不定値)の定義と性質

行列の定値性(正定値・半正定値・負定値・半負定値・不定値)の定義と性質

行列の定値性(正定値・半正定値・負定値・半負定値・不定値)を次で定義する。

(0-1)正定値

\(K\)上の\(n\)次エルミート行列\(H\)が任意の非零列ベクトル\(\boldsymbol{x}\in K^{n}\setminus\left\{ \boldsymbol{0}\right\} \)に対し、標準エルミート内積が\(0<\left\langle H\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle =\boldsymbol{x}^{*}H\boldsymbol{x}\)となるとき、\(H\)は正定値であるという。
\(H\)が正定値であることを\(0<H\)でも表す。

(0-2)半正定値

正定値と同じようにして、\(0\leq\left\langle H\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle =\boldsymbol{x}^{*}H\boldsymbol{x}\)となるとき、\(H\)は半正定値であるという。
\(H\)が半正定値であることを\(0\leq H\)でも表す。

(0-3)負定値

正定値と同じようにして、\(\boldsymbol{x}^{*}H\boldsymbol{x}=\left\langle H\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle <0\)となるとき、\(H\)は負定値であるという。
\(H\)が負定値であることを\(H<0\)でも表す。

(0-4)半負定値

正定値と同じようにして、\(\boldsymbol{x}^{*}H\boldsymbol{x}=\left\langle H\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \leq0\)となるとき、\(H\)は半負定値であるという。
\(H\)が半負定値であることを\(H\leq0\)でも表す。

(0-5)不定値(不定符号)

正定値・半正定値・負定値・半負定値のいずれでもないエルミート行列\(H\)を不定値または不定符号であるという。

(0-6)

行列\(A,B\)があるとき、\(A\leq B\)を\(0\leq B-A\)で定める。
同様に\(A<B\)を\(0<B-A\)で定める。

行列の定値性(正定値・半正定値・負定値・半負定値・不定値)の性質
行列の定値性は次の性質を満たす。

(1)

エルミート行列\(H\)があり、正定値行列であることと、\(H\)の全ての固有値\(\lambda_{k}\)が正実数\(0<\lambda_{k}\)であることは同値である。
同様に、
エルミート行列\(H\)があり、半正定値行列であることと、\(H\)の全ての固有値\(\lambda_{k}\)が非負実数\(0\leq\lambda_{k}\)であることは同値である。
エルミート行列\(H\)があり、負定値行列であることと、\(H\)の全ての固有値\(\lambda_{k}\)が負実数\(\lambda_{k}<0\)であることは同値である。
エルミート行列\(H\)があり、半負定値行列であることと、\(H\)の全ての固有値\(\lambda_{k}\)が非正実数\(\lambda_{k}\leq0\)であることは同値である。
エルミート行列\(H\)があり、不定値であることと、\(H\)が負の固有値をもつかつ正の固有値をもつことは同値である。
が成り立つ。

(2)

正定値行列\(H\)は正則である。
また、正定値行列\(H\)の逆行列\(H^{-1}\)も正定値行列である。
逆は一般的に成り立たない。
同様に負定値行列\(H\)は正則であり、逆行列\(H^{-1}\)も負定値行列であるが逆は一般的に成り立たない。

(3)

エルミート行列\(H\)が正定値ならば、\(0<\det\left(H\right)\)となる。
逆は一般的に成り立たない。

(4)

任意の\(n\times n\)行列\(A\)について、\(A^{*}A\)は半正定値、つまり\(0\leq A^{*}A\)となる。
同様に\(AA^{*}\)は半正定値、つまり\(0\leq AA^{*}\)となる。

(5)

行列\(A\)が正定値\(0<A\)ならば、\(A\)はエルミート行列となる。
逆は一般的に成り立たない。
半正定値\(0\leq A\)・負定値\(A<0\)・半負定値\(A\leq0\)でも同様に\(A\)はエルミート行列となる。

(6)

行列\(A,B\)があるとき、\(A\leq B\Leftrightarrow\forall\boldsymbol{x}\in K^{n},\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \leq\left\langle B\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \)が成り立つ。
同様に\(A<B\Leftrightarrow\forall\boldsymbol{x}\in K^{n},\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle <\left\langle B\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \)が成り立つ。

(1)

エルミート行列でなければ正定値・半正定値・負定値・半負定値・不定値とはなりません。

(2)

\(0<H,0\leq H,H<0,H\leq0\)の不等号の記号は正行列や非負行列を表すのに使うこともある。
正行列とは行列の全ての成分が正である行列で、非負行列は行列の全ての成分が非負である行列である。

(3)

その他次が成り立つ。
行列\(G\)がグラム行列であることと、行列\(G\)が半正定値行列であることは同値である。

(1)

\(\Rightarrow\)

\(H\)の固有値を\(\lambda_{k}\)としてその固有ベクトルを\(\boldsymbol{x}_{k}\)とすると、\(0<\left\langle H\boldsymbol{x}_{k},\boldsymbol{x}_{k}\right\rangle =\left\langle \lambda_{k}\boldsymbol{x}_{k},\boldsymbol{x}_{k}\right\rangle =\lambda_{k}\left\langle \boldsymbol{x}_{k},\boldsymbol{x}_{k}\right\rangle =\lambda_{k}\left\Vert \boldsymbol{x}_{k}\right\Vert ^{2}\)となるので、\(0<\lambda\)となる。
これが任意の\(\lambda_{k},k\in\left\{ 1,2,\cdots,n\right\} \)に対して成り立つので、題意は成り立つ。

\(\Leftarrow\)

\(H\)はエルミート行列なので、あるユニタリ行列\(U\)が存在し、対角化が可能であり、そのときの対角成分は固有値になる。
従って、\(U^{-1}HU=\diag\left(\lambda_{1},\lambda_{2},\cdots,\lambda_{n}\right)\)となるので、任意の非零列ベクトル\(\boldsymbol{x}\in K^{n}\setminus\left\{ \boldsymbol{0}\right\} \)に対し、
\begin{align*} \left\langle H\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle & =\boldsymbol{x}^{*}H\boldsymbol{x}\\ & =\boldsymbol{x}^{*}UU^{-1}HUU^{-1}\boldsymbol{x}\\ & =\boldsymbol{x}^{*}U\diag\left(\lambda_{1},\lambda_{2},\cdots,\lambda_{n}\right)U^{-1}\boldsymbol{x}\\ & =\sum_{k=1}^{n}\lambda_{k}\left\Vert \left(U^{-1}\boldsymbol{x}\right)_{k}\right\Vert ^{2}\\ & \geq0 \end{align*} となり、\(H\)は正定値行列となる。
従って\(\Leftarrow\)が成り立つ。

\(\Leftrightarrow\)

これらより、\(\Rightarrow\)と\(\Leftarrow\)が成り立つので\(\Leftrightarrow\)が成り立つ。
他の3つについても同様である。

(2)

\(\Rightarrow\)

正定値行列が正則であることを示すだけならば次のようにすればいい。
正定値行列は全ての固有値が正であり、行列式は重解も含めた全ての固有値の積なので行列式は正ととなる。
これより、行列式は0ではないので正定値行列は正則となる。
また、逆行列の固有値は元の行列の固有値の逆数なので、元の行列の固有値が正ならば逆行列の固有値も正になる。
従って正定値行列の逆行列も正定値行列となる。

逆は一般的に成り立たない

反例で示す。
エルミート行列
\[ H=\left(\begin{array}{cc} -1 & 0\\ 0 & -1 \end{array}\right) \] の行列式は1なので正則であるが、固有値は\(-1,-1\)なので、負定値行列となる。
従って逆は一般的に成り立たない。

負定値行列

負定値行列についても同様に証明できる。

(2)-2

\(\Rightarrow\)のみを示す。
\(H\)を\(n\)次正定値行列とする。
正定値行列なので固有値\(\lambda_{k}\)は\(\forall k\in\left\{ 1,2,\cdots,n\right\} ,0<\lambda_{k}\)となる。
また、正定値行列はエルミート行列でエルミート行列は正規行列なので、あるユニタリ行列\(U\)により対角化が可能である。
これより、\(\diag\left(\lambda_{1},\lambda_{2},\cdots,\lambda_{n}\right)=U^{-1}HU\)となるので、\(H=U\diag\left(\lambda_{1},\lambda_{2},\cdots,\lambda_{n}\right)U^{-1}\)なので\(H^{-1}=\left(U\diag\left(\lambda_{1},\lambda_{2},\cdots,\lambda_{n}\right)U^{-1}\right)^{-1}=U\diag\left(\lambda_{1}^{-1},\lambda_{2}^{-1},\cdots,\lambda_{n}^{-1}\right)U^{-1}\)となり逆行列が存在するので\(H\)は正則となる。
また、逆行列\(H^{-1}\)を対角化すると、\(U^{-1}H^{-1}U=\diag\left(\lambda_{1}^{-1},\lambda_{2}^{-1},\cdots,\lambda_{n}^{-1}\right)\)
となり、固有値は\(\lambda_{1}^{-1},\lambda_{2}^{-1},\cdots,\lambda_{n}^{-1}\)であり、\(\forall k\in\left\{ 1,2,\cdots,n\right\} ,0<\lambda_{k}\)なので\(\forall k\in\left\{ 1,2,\cdots,n\right\} ,0<\lambda_{k}^{-1}\)となり、\(H^{-1}\)は正定値行列となる。
従って題意は成り立つ。

(3)

\(\Rightarrow\)

エルミート行列\(H\)が正定値のとき、固有値は全て正であり、行列式は全ての固有値の積なので行列式は正になる。
従って\(\Rightarrow\)が成り立つ。

逆は一般的に成り立たない

反例で示す。
エルミート行列を
\[ H=\left(\begin{array}{cc} -1 & 0\\ 0 & -1 \end{array}\right) \] とすると、行列式は1なので\(0<\det\left(H\right)\)であるが、固有値は\(-1,-1\)であるので負定値行列であり、正定値行列ではない。
従って逆は一般的に成り立たない。

(4)

体\(K\)上で考え、任意の\(\boldsymbol{x}\in K^{n}\)について、
\begin{align*} \left\langle A^{*}A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle & =\left\langle A\boldsymbol{x},A\boldsymbol{x}\right\rangle \\ & =\left\Vert A\boldsymbol{x}\right\Vert ^{2}\\ & \geq0 \end{align*} となるので、\(A^{*}A\geq0\)となる。
\(AA^{*}\)についても同様である。

(5)

\(\Rightarrow\)

\(0<A\)とすると、任意の\(\boldsymbol{x}\in K^{n}\)について、\(0<\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \)となる。
このとき、\(\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \in\mathbb{R}\)であるので、\(A\)はエルミート行列となる。

逆は一般的に成り立たない

反例で示す。
\(A\)を\(1\times1\)行列\(A=\left(-1\right)\)とする。
このとき、\(\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle =\left\langle -\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle =-\left\langle \boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle =-\left\Vert \boldsymbol{x}\right\Vert ^{2}\leq0\)となるので、半負定値\(A\leq0\)となり、半正定値ではない。
従って、逆は一般的に成り立たない。

半正定値・負定値・半負定値の場合

半正定値・負定値・半負定値の場合も同様である。

(6)

\(A\leq B\)は定義より\(0\leq B-A\)であるので、
\begin{align*} A\leq B & \Leftrightarrow0\leq B-A\\ & \Leftrightarrow\forall\boldsymbol{x}\in K^{n},0\leq\left\langle \left(B-A\right)\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \\ & \Leftrightarrow\forall\boldsymbol{x}\in K^{n},0\leq\left\langle B\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle -\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \\ & \Leftrightarrow\forall\boldsymbol{x}\in K^{n},\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \leq\left\langle B\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \end{align*} となるので題意は成り立つ。
同様に\(A<B\Leftrightarrow\forall\boldsymbol{x}\in K^{n},\left\langle A\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle <\left\langle B\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}\right\rangle \)も成り立つ。
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行列の定値性(正定値・半正定値・負定値・半負定値・不定値)の定義と性質
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